前回の記事で触れた「母語ドミナントバイリンガル」について、今日はもう少し詳しく書いてみます。(簡単にまとめるつもりが、結構長くなってしまいました)
英語育児ギョーカイでは、時々「バイリンガルの定義」が話題になることがあります。
私も、日本でおうち英語している頃は、「バイリンガル」というのをすごく大袈裟に考えていました。
例えば、私自身は通訳として仕事を始めていましたが、自分のことは「バイリンガルだなんて、とんでもない!!」と思っていましたし、自分の子供達にも「私には叶わなかったバイリンガルという夢」を託していました(笑)
でも、アメリカに住むことになり、アメリカの大学院に入り、言語哲学の授業まで受けるようになると、周囲の人達からは、当たり前のように「日本語と英語のバイリンガル」として扱われました。
そこで
「いやいや、私なんてバイリンガルでもなんでもないから」
などと言おうものなら、
「えっ、日本語はしゃべれないの?」
「いや、もちろん日本語が第一言語だけど」
「じゃあ、立派なバイリンガルじゃない!」
という会話になるのが常で、そのうちに
「そうか、私もバイリンガルなんだ!」
と思うようになりました(笑)
一般的に日本人は真面目なので(などという乱暴な一般化に気を悪くされる方がいらっしゃったらすみませんが)、とにかく日本では
「バイリンガルと言うからには、英語も日本語と同じぐらい完璧にできないなら、『バイリンガル』なんて名乗るな!」
という意見が多いのかもしれませんが、日本を一歩出たら
「英語しゃべれんの?
それで日本人なんだから日本語もしゃべれんの?
じゃ、あなたバイリンガルね」
ぐらいのノリです(笑)
ですが、もちろん、世の中には、そんなノリでは済まない世界もあります。
と言うのは、バイリンガルと言ってもいろいろなレベルがあって、そのレベルによっては、言語以外の知的能力の発達に影響を与えるので、特に子供の発達を考える時には、「両方しゃべれんの? じゃ、バイリンガルね、はい終わり」では済みません。
で、このバイリンガリズムと知的能力の発達の関係を考える時に、レベル分けされているバイリンガルの種類として、例えば、次の4つに分けることがあります。(ここでは、日本語と英語のバイリンガルを想定しています)
① バランス・バイリンガル:日本語も英語も年齢相応以上
(→ 知的能力の発達に良い影響)
② 母語ドミナント・バイリンガル:日本語は年齢相応以上、英語はそれなり
(→ 知的能力の発達に良い影響も悪い影響もなし)
③ 現地語ドミナント・バイリンガル:例えば日本人夫婦がアメリカに移住後に生まれ育った子供で、英語は年齢相応以上、日本語はそれなり
(→ 知的能力の発達に良い影響も悪い影響もなし)
④ ダブルリミテッド・バイリンガル:日本語も英語も年齢相応に達していない
(→ 知的能力の発達に悪い影響)
この中で、バイリンガルであることが知的発達に悪影響を及ぼすと言われているのが、④のダブルリミテッド・バイリンガル、いわゆる「セミリンガル」と呼ばれるレベルです。
一方、一般的な多くの日本人が想定している「バイリンガル」つまり
「バイリンガルと言うからには、英語も日本語と同じぐらい完璧にできないなら、『バイリンガル』なんて名乗るな!」
と言う時にイメージしているのは、①のバランス・バイリンガルだと思います。
①のバランス・バイリンガルを育てられれば理想的かもしれませんが、日本のように日本語が強い国でそれを目指すのは、不可能ではないにしても、親の並々ならぬ覚悟と多大な努力や周囲の理解(それに、それなりの財力)がないと難しく、一般の家庭でおいそれとできることではありません。
そして、バランス・バイリンガルを目指すあまり、どちらも中途半端になって④のダブルリミテッド・バイリンガルで終わってしまう危険性もあります。
そんなこともあって、日本で「バイリンガル論争」が起きる時には、「バランス・バイリンガル」という非現実的な場合を想定して「完璧にできないなら、やらない方がまし」となってしまったり、「リミテッド・バイリンガル」というネガティブな結果が目立ってしまって、早期英語教育が叩かれたり、そんなこんなで、子供英語は進まないのかな、とも思います。
ですが、日本人が英語ができないことは、日本の将来にとってとてつもなく悪い影響がある!という強い危機感が私にはあります。
(それと同時に、最近の日本人の国語力も、もっと高めるべきだとは思っているのですが)
確かに、バランス・バイリンガルを育てるのはとても大変で難しいことなのですが、②の母語ドミナント・バイリンガルである「日本語ドミナント・バイリンガル」に子供を育てるのは、やり方とコツさえ分かれば、すごく簡単なことです。
そして、知的能力の発達についても、我が家の経験から考えても、日本語ドミナント・バイリンガルなら悪い影響はないと思います。(もちろん断言はできませんが)
そもそも、私達・親はどうして「我が子に英語を」と思うのでしょうか?
その背景には、現在の世界の「現実」があります。
現在の世界で、英語が「共通語」として使われているという現実。
そして、情報の境界がどんどんなくなってきているという現実。
こうした現実を踏まえた上で、「何とかしなければ」ということで、教育界でも「英語偏重」の動きがあるのだと思います。
このブログでは繰り返しお伝えしているように、おうち英語をするからと言って、家の中を全部英語にしたり、アメリカナイズされた生活を送る必要はありません。
普通の日本の生活に、ほんの少し「英語の音」を足してあげるだけで、幼児は英語を習得します。
普通の日本語での勉強に、ほんの少し「英語の読み書き」を足してあげるだけで、小学生は「英語ができる子」に育って行きます。
そうやって、知的発達に悪影響を与えることなく、日本の子供が一人でも多く「普通の家庭でバイリンガルに」育っていって欲しい、と願っています。
(参考記事:「おうち英語で育つバイリンガルって?」)